2008年3月27日

人間の腸内細菌叢を解明するための大腸モデルを構築
腸内での物質代謝を解析し、腸内環境の改善に貢献

 キリンホールディングス株式会社(社長 加藤壹康)の基盤技術および次世代技術の開発を担うフロンティア技術研究所(横浜市金沢区、所長 水谷悟)は、広島大学、東京農工大学と共同で、人間や動物の健康に大きく関わっている腸内細菌叢※1の変化や代謝の解明に向けて、培養器を用いた大腸モデルを作成しました。これにより、大腸内細菌による複雑な代謝の流れを解析することが可能となり、腸内環境の研究に向け大きく前進することになります。
 また、これまでの動物実験で腸内環境に好影響をもたらす可能性があることがわかったビール酵母細胞壁(BYC)※2をこの大腸モデルに投入し効果を検証した結果、無添加の大腸モデルと比較して、腸内に悪影響をもたらすといわれているバクテロイデス菌(Bacteroides)の減少が見られたことから、BYCの整腸効果が科学的に検証されました。これらの結果については、2008年3月27日の日本農芸化学会で発表します。
 当研究所では、この大腸モデルを用いて、新製品の開発や、既存の機能性食品の作用や安全性の向上に活用し、お客様の生活習慣病などの予防にも貢献します。

  • ※1 腸内に生息する細菌集団
  • ※2 ビール酵母細胞壁を原料とした食物繊維。他の食物繊維に比べてもその膨らむ力は大きく、水分を吸収して約10倍になる性質を持つ。お腹の中をやさしく動きながら善玉菌の栄養となりビフィズス菌の生育をサポートする。

 人間や動物の腸内細菌は約100兆個、数百種から構成されており、その複雑な環境や機能はいまだ詳しく解析されていません。腸は栄養物の消化・吸収をつかさどる消化器官としての役割のほか、免疫組織や神経器官として動物の健康に影響を与えるといわれ、腸内環境改善は注目されています。
 当社はそのメカニズムの解明に着目し、当社のもつ生物学的技術と広島大学、東京農工大学の工学的技術を組み合わせて、動物の大腸のもつ複雑な細菌叢の培養を行なえる大腸モデルを作成しました。
 大腸モデルは、小腸以降の下部消化管を「盲腸・上行結腸」「下行結腸」「S字結腸・直腸」の部位に分けて制御したものです。このモデルを人間の腸内と同温度である37℃に保ち、家畜の糞便サンプルを用いて連続嫌気培養を行ないました。その結果、動物の生体と同様に複雑な細菌叢が維持され、かつ多様な微生物を一定期間培養することができたことから、生体と同じ代謝の流れを作り出すことができました。さらに、大腸モデルにプレバイオティクス※3であるBYCを投入しその効果を検証したところ、バクテロイデス菌が減少し、ラクトバチルス菌※4を維持・増加するとともに、有機酸であるプロピオン酸、酢酸の生成量が顕著に増加したことから、BYCの添加が腸内細菌叢を改善し、有機酸代謝に影響を与えていることが示唆されました。
 今後は、この大腸モデルを使用して、腸内環境を改善する素材の検証や開発、有害といわれる微生物などを投入しての安全性の評価など、腸内環境メカニズムの解明に向けた研究を進めていきます。

  • ※3 食物繊維などいわゆる善玉細菌の栄養源となることで腸内細菌叢の改善をもたらす物質
  • ※4 腸内の善玉乳酸菌

 当社は、酒類・飲料および食品分野の未来につながる技術を開発するとともに、お客様に安全な食品をお届けするため、原料や製品の安全性確認、新規開発商品の分析評価など、食品の安心・安全を高度に確保するための取り組みを行っています。キリングループは「おいしさを笑顔に」をグループスローガンに掲げ、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、「食と健康」のよろこびを提案していきます。

大腸モデルの構造図と写真

【大腸モデル構造図】
【大腸モデル写真】