2008年3月27日

乳酸菌KW3110株(Lactobacillus paracasei KW3110株)のゲノム配列を解読

 キリンホールディングス株式会社(社長 加藤壹康)の基盤技術および次世代技術の開発を担うフロンティア技術研究所(横浜市金沢区、所長 水谷悟)は、グループ企業の小岩井乳業社にある100種類以上の乳酸菌の中から選び出した、Lactobacillus paracasei KW3110株(乳酸菌KW3110株)の全ゲノム配列の解読に成功しました。
 得られたゲノム情報を他の乳酸菌株の遺伝子情報と比較することで、その特異性を明確にし、乳酸菌KW3110株のもつ形質の解明について今後も研究を続けていきます。なお、本研究は3月26日から名古屋で開催されている2008年度日本農芸化学会大会にて、3月27日に発表します。

 乳酸菌KW3110株は、Thバランス※1を調節する作用のある乳酸菌で、花粉症やアトピーモデルにおける症状緩和が過去の動物実験で報告されています。また、胃酸や胆汁酸に対する耐性を備え、腸内での滞留時間が長いなどのプロバイオティクス※2としても有用な形質を備えていることから、乳酸菌KW3110株の特徴的な形質に関連する遺伝子情報を得るために本株の全ゲノム配列を解読しました。
 今回、乳酸菌KW3110株からゲノムDNAを抽出し作製した遺伝子ライブラリーの塩基配列を解読することにより、高精度な完全長配列を取得することに成功しました。その結果、乳酸菌KW3110株の染色体DNAサイズは約3.0Mbp(メガ塩基対※3)と、これまでにゲノム配列が公開されていて本菌株と近縁の乳酸菌株(L.casei ATCC334株)の染色体DNAよりやや大きく、11.1kbp(キロ塩基対※3)および5.5kbpのプラスミド※4を持っていることも判明しました。また、遺伝子の数は2,831個と推定され、ATCC334株の2,771個より多いことがわかりました。

  • ※1 血中に存在するTh1とTh2という2種類の免疫細胞の濃度バランス。このバランスの偏りがアレルギーを引き起こす原因の一つといわれている。
  • ※2 腸内細菌叢のバランスを改善することにより健康に有益な働きをする生きた微生物。
  • ※3 DNAの長さの単位。メガは10の6乗、キロは10の3乗。
  • ※4 染色体とは独立して複製される小型の環状DNA。染色体外遺伝子ともいう。

 乳酸菌は代表的なプロバイオティクス菌といわれていますが、乳酸菌KW3110株の免疫調節作用のような形質は菌株ごとに大きく異なっています。今回、乳酸菌KW3110株のゲノム解析を行い、分類学上近い乳酸菌株との比較を行なった結果、ゲノムサイズや遺伝子数が大きく異なっていることがわかったことで、今後、乳酸菌KW3110株の形質が遺伝子的にどのような特徴によるものなのかを解明していきます。

 キリングループは「おいしさを笑顔に」をグループスローガンに掲げ、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、「食と健康」のよろこびを提案していきます。