2009年3月17日

バイオマス由来プラスチックの原料となるL-乳酸を
世界最高レベルの効率で産生する酵母の分子育種に成功

 キリンホールディングス株式会社(社長 加藤壹康)のフロンティア技術研究所(横浜市金沢区、所長 水谷悟)は、グルコースからバイオマス由来プラスチック※1の原料となるL-乳酸を世界最高レベルの効率で産生する酵母を工業利用性の高いキャンディダ・ユティリス酵母(Candida utilis)から育種することに成功しました。この研究成果は3月28日に日本農芸化学会2009年度大会で発表します。

  • ※1 植物や微生物など、短期間で再生可能な生物由来の有機性資源(バイオマス)を原料とした環境配慮型のプラスチックのこと。糖類を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸を重合させた「ポリ乳酸」の実用化がもっとも進んでいる。

 地球温暖化が進む中、「低炭素社会」への取り組みは世界的な課題であり、キリングループも「低炭素企業グループの実現」を中長期的なテーマに掲げ、アクションを開始しています。その一つとして、バイオマス由来プラスチック原料のポリ乳酸に関する研究を継続しています。
 ポリ乳酸は、原料となる乳酸の光学純度※2が高いほど、耐熱性などの点でプラスチックとして優れた性能を持ちます。そこで、本来はほとんど乳酸を産生しない“酵母”に乳酸脱水素酵素※3の遺伝子(LDH遺伝子)を導入して、グルコースなどの糖からL-乳酸を生成させる技術が試みられています。しかし一方で酵母には糖からエタノールを生成する性質があるため、乳酸の生成を阻害するという課題がありました。

  • ※2 乳酸にはL-乳酸やD-乳酸などの異性体があり、一方の比率が高いほど光学純度が高い。光学純度の高いL-乳酸を重合させたポリ乳酸を、D-乳酸を重合させたポリ乳酸と混合することで耐久性に優れたプラスチックができる。
  • ※3 グルコースを代謝する過程で生成されたピルビン酸を脱水素して乳酸に変換する働きをもつ酵素

 当社は、この乳酸産生酵母の宿主としてキャンディダ・ユティリス酵母を採用し、エタノールの生成を抑えつつ、世界最高レベルでL-乳酸を産生する株の育種に成功しました。宿主であるキャンディダ・ユティリス酵母は、増殖力や発酵力に非常に優れ、調味料生産にも用いられていますが、高次倍数体※4であるため、エタノールを生成する遺伝子を完全に破壊するには、高いレベルの遺伝子ハンドリング技術が必要とされてきました。
 今回、当社が培ってきたキャンディダ・ユティリスの遺伝子改変技術を駆使して、エタノール生成に関与するピルビン酸脱炭酸酵素※5の遺伝子の脱落操作を複数回行うことにより、エタノールを全く生成しない酵母を作成しました。この酵母にウシ由来のL-LDH遺伝子を導入することにより、乳酸産生酵母(Pj0957株)を作製しました。この菌株は、約100g/Lのグルコースを含む栄養培地で33時間後にほぼ全ての糖を消費し、変換効率95%以上という高効率で光学純度99.9%を超えるL-乳酸を生産する世界最高レベルの乳酸高産生酵母です。
 工業的に利用しやすいキャンディダ・ユティリス酵母を宿主にして高純度のL-乳酸を迅速かつ高収率でつくる性質をもった酵母の作製に成功したことで、今後のバイオマス由来プラスチックの生産性向上に役立つことが期待されます。

  • ※4 構成するゲノムが2セット以上ある細胞を表す。今回利用したキャンディダ・ユティリスは4倍体である可能性が示されており、酵母の中でも倍数性が高い。
  • ※5 嫌気条件下でピルビン酸をアセトアルデヒドに変換する酵素。アセトアルデヒドが還元されてエタノールを生成する。

 キリングループは「おいしさを笑顔に」をグループスローガンに掲げ、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、「食と健康」のよろこびを提案していきます。